パウダーフュージング技法の制作工程

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パウダーフュージング技法  2015/10/01 (木) 15:05 水吉郁子
パウダーフュージング技法の基本的な制作工程をまとめてみました。

材料のガラス粉

パウダーフュージング技法はガラスの粉から板を作り、
そこにガラスの粉で絵を描きます。
最初の工程は、そのガラス粉を作るところです。
ガラス粉にはいくつか種類があって、
種類によっては市販品を使いますが、
一番よく使う無色透明なガラスの粉は、自分で作っています。
機械で作るのですが、これが結構大変です。

無色透明なガラス粉は自分で作りますが、
色のついたガラス粉は市販品を購入しています。
色数が160色以上もあり、それを一つ一つ粉にするのは大変だからです。
その色のついたガラス粉は、粉の状態だと白っぽく見え、
焼成したときの本当の色がわかりません。
そのため、本当の色が分かるように色見本を作っておきます。
これも制作工程の一つといえるかもしれません。


ガラス粉からガラス板を作る

次は粉からガラス板を作る工程です。
基本はシンプルです。
右の写真のように、平らな棚板に粉を適当な厚さに置いて、
それを電気炉で加熱焼成するだけです。

ガラス粉を棚板に置くとき、色の粉を使って模様を描くこともできます。
その話も含めて、板を作る方法がこちらのページに書いてあります。

粉を厚く置けば厚いガラス板になり、
薄く置けば薄い板になりますが、
薄い方は限界があります。
粉が薄すぎるとガラス板に穴が空いてしまうからです。
そして、穴が空けば失敗なのですが、
穴が空く性質を逆手にとって、
細かな穴が沢山空いた超薄のシートを作ることもできます。
超薄シートは好きな形にカットできるので、
いろいろ応用が効きます。
他のガラス技法にはない面白さです。

IMG_5748_s.JPG ガラス粉の粒子の大きさによって
ガラス板の風合いを変えることもできます。

粒子の細かい粉で板を作ると柔らかい和紙のような風合いになり、
粒子の大きい粉で板を作ると透明でクリアーな風合いになります。

IMG_4538_s.jpg 色合いや風合いだけでなく、ガラス板の形も自由です。
従来の技法では、
U字形やV字形に凹んだ形のガラス板を作るのは大変だったのですが、
そこも工夫して、
比較的簡単に、自由に、形を作る方法を考案しました。
その方法を「つなぎ成形技法」と呼んでいます。


絵を描く

まず、ガラス粉からガラス板を作るところで、
砂絵を描くように、粉を配置することで、
模様や絵柄を描くことができます。


ガラス板からお皿などを作るとき、板の端っこを切り落とすことがあります。
その切り落としたカケラを再利用して絵を描く方法もあります。
カケラを溜めた箱から適当なカケラを選んで、棚板に配置し、
その上にある程度の厚みで無色透明な粉をかけて、電気炉で焼成すれば、
カケラで描いたモザイク画を封じ込めたガラス板ができます。
もっとシンプルに、カケラをパラパラと配置するだけでも綺麗です。
この方法なら、初めての人でも大丈夫!

IMG_20190519_142612_s.jpg ガラス板を作った後で、板に粉で絵を描くこともできます。
ガラスの粉が絵の具だと思って、
それでガラス板の上に絵を描くだけです。

線を描くときは、
ガラス粉にノリを混ぜてペーストを作り
それを袋で絞り出して
描きます。(右の写真)
ケーキにクリームで絵を描くのと同じ考え方です。

ただ、右の写真のように、
ベースのガラス板に何色も使い、
そして、その上に描く線も何色も使うという場合は
絵の具で絵を描くときとは手順が違うので、慣れが必要です。
筆を使って面を塗りつぶすこともできます。
ガラス粉の厚さで濃淡も表現できます。
さらに、粉のペーストを厚く盛り上げるようにすれば、
油絵のようなテクスチャを表現することもできます。

爪楊枝などでガラス粉を引っ掻いて絵を描く方法もあります。
型紙を使い、そこにガラス粉を振って絵を描く方法もあります。
右の写真は染め物の型紙を使っていますが、
自分で絵を描いた紙を切り抜いて型紙として使うこともできるので、
図案は自由です。

IMG_9918_s.JPG ガラスに凹凸を付けて、その凹凸で絵を描く
「レリーフ技法」と呼んでいる方法もあります。
ガラス粉を使ったパウダーフュージングならではの方法だけでなく、
陶芸や絵付けなどの技法で絵を描くこともできます。
陶芸用の転写シートを使ったり、絵付け用の絵の具を使ったり、
方法はいろいろです。

成型する

IMG_4175_s.JPG 次は、平らなガラス板をお皿やぐい吞みの形に成型する工程です。
この工程は形によって二つの方法を使い分けます。

一つは、お皿のような浅い形の成型方法です。
こちらは、目的の形に合わせた型(右の写真)を使って電気炉で加熱する、
スランピングという方法です。
普通、ガラス板と同じ形の型を使うのですが、
ガラス板と違う形の型を使うと、面白い形のお皿ができます。

ボウルやぐい吞みのように深い形にしたいときは、
サギングという方法を使います。
こちらは、穴の空いたドーナツ状の型にガラス板を乗せて加熱し、
穴の部分のガラスが溶けて下に垂れ下がるのを利用して成型する技法です。
深い形ができますが、下で支えるものがないので、
電気炉の温度調節で垂れ下がり具合を
コントロールしないといけません。
それだけ難易度が高い方法といえます。
この方法には、ガラスが垂れ下がるときに伸び、
そこに描いた絵が伸びるという特徴があり、
それが面白い効果を生むことがあります。


電気炉で焼成する

パウダーフュージング技法の作品創りでは、
何回か、電気炉で加熱する工程を経て作品ができあがります。
最低でも、ガラス板を作る工程と、成型する工程の2回、
複雑な作品だと、10回近くも電気炉で加熱します。

この電気炉の作業が結構時間をとります。
700~800度くらいまで温度を上げますから、
まず、温度を上げるところで時間がかかりますし、
急に冷ますとガラスが割れるので、ゆっくり温度を下げますから、
そこでも時間がかかります。
どんなに急いでも丸1日仕事になってしまいます。
何枚もガラス板を重ねて溶着させるような場合は、
ガラス内部まで熱が伝わるのに時間がかかるので、
数日かけて電気炉を動かすこともあります。

ですから、この工程の効率化は欠かせません。
作品の大きさや工程によって焼き方が違うので、
同じ焼き方の作品を溜めて、それをまとめて電気炉に入れるわけです。
あれとこれは一緒にできるけど、これはダメとか、
パズルの組み合わせのようです。

また、夏の暑い時期、電気炉に作品を出し入れする際、
顔から汗が落ちると加熱したときにガラスが割れますから、
それを防がないといけません。
タオルとかで顔を覆うのですが、
とっても怪しい感じになっちゃいます。